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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1429号 判決

控訴人

甲野花子(仮名)

右訴訟代理人弁護士

辻野和一

右訴訟復代理人弁護士

鍛治川善英

中村恒光

杉本啓二

被控訴人

岸和田市

右代表者市長

原曻

右訴訟代理人弁護士

俵正市

寺内則雄

小川洋一

塚本宏明

國谷史朗

平野惠稔

長山亨

長山淳一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、被控訴人に関する部分を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し、三一五万円及びこれに対する平成元年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払訟え。

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」のうち被控訴人に関する部分記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表九行目から同裏五行目までを次のとおり改める。

「控訴人は、米国学校法人ユナイテッド・ステイツ・インターナショナル・ユニバーシティ(以下「USIU」という。)が被控訴人から誘致を受けて平成元年四月に岸和田市野田町に設置した学校(以下「USIU日本校」という。)に開校とともに入学したものであるところ、USIU日本校の実態がUSIU及び被控訴人の当初の表示及び説明等と著しく相違すること、又、これに抗議するなどしたためにUSIUから違法な停学処分を受けたことにより、財産的、精神的損害を被ったとして、同校設置の共同事業者若しくは誘致者であり、広報等に開校及び学生募集要項を掲載した被控訴人に対し、民法七〇九条の不法行為による損害賠償請求権又は国家賠償法一条による国家賠償請求権に基づいて三一五万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成元年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めている。

これに対し、被控訴人は、USIU日本校設置の共同事業者であることを否認し、同校の誘致について違法及び過失がないとして、控訴人の請求を争っている。」

2  同一九枚目表末行を「6 被控訴人の責任」と改める。

3  同一九枚目裏一行目から同五行目までを次のとおり改める。

「(控訴人の主張)

Ⅰ  被控訴人のUSIUとの共同事業による不法行為責任

(一) 被控訴人の共同事業者性

被控訴人は、岸和田市内にUSIU日本校を設置するについてUSIUと共同の事業者であり、少なくとも控訴人その他の学生との関係において共同事業者とみるのが公平であり、このことは、次の点から明らかである。

(1) 共同目的の存在と共同事業の内容

被控訴人は、USIUとの間で、原判決添付の平成元年一月一八日付のUSIU大阪校設置についての基本協定(以下「基本協定」という。〔証拠略〕)、同年一月一五日付のUSIU日本校設置についての基本契約(以下「基本契約」という。〔証拠略〕)を締結し、岸和田市内にUSIU日本校を設置することを共同の目的とし、その設置を共同して行うことを約した。

(2) 共同事業遂行についての出捐の分担

被控訴人は、USIUに対し、USIU日本校のために、岸和田市野田町の被控訴人の福祉総合センター内の施設を暫定的な校舎として無償貸与し、恒久的な施設の敷地として岸和田市内のコスモポリス計画地域内の造成、整備済みの六ヘクタールの土地(同土地境界までの電気、ガス、水道等の付帯設備を含む。)を二五年間にわたり無償譲渡することを約している。これを金銭に評価すると、約二一億四〇〇〇万円から三一億四〇〇〇万円となる。USIUがUSIU日本校のために負担する資金が約四九億二〇〇〇万円から六一億五〇〇〇万円と見込まれるから、被控訴人の負担割合は三〇・三パーセントから三三・七パーセントである。

(3) 経営管理事項についての意思決定関与権

被控訴人は、基本契約において、日本法人USIUが設立されるまでの間に基本契約の目的に反する運営がなされていると認められる場合には、USIUに対し、USIU日本校の活動、運営状況、業務、会計の報告を求めるとともに、協議を要求でき、管理、運営について必要な変更を勧告することができることになっている。

USIUは、USIU日本校に関して日本法人USIUを設立するに当たり、組織、構成等について被控訴人と協議し、被控訴人の助言を受けることになっている。

被控訴人は、基本契約において、日本法人USIU設立後も、基本契約の目的に反する運営がなされていると認められる場合には、日本法人USIUに対し、USIU日本校の活動、運営状況の報告を求めるとともに、協議を要求できることになっている。

被控訴人は、基本契約において、基本契約の目的が達成され得ないと認めた場合には、仮校舎の返還を要求し、設立後の日本法人USIUが基本契約に沿った教育活動を行っていないと認められる場合には、恒久施設建設のため譲渡した土地の返還を求めることができることになっている。

このように、被控訴人は、USIU日本校の存続について最終決定的権限(USIU日本校を実質上廃止する権限)まで有している。

被控訴人が後に設立される日本法人USIUの経営管理責任を負わないという基本契約の条項は、共同事業遂行における一応の業務分担を内部的に定めたものに過ぎず、被控訴人がUSIU日本校の設置について共同事業者であることを否定する趣旨ではない。

(4) 共同事業の遂行による利益享受

被控訴人は、USIU日本校を設置することにより産・官・学・往の一体としての国際都市を建設するコスモポリス計画の実現による地域振興という利益を享受し、USIUは、アジアの拠点校を得て事業を拡大できるという利益を享受し、両者の共同事業であった。

(二) 被控訴人の共同事業遂行の違法性

教育の場となる学校の設置は、学校教育法等の各種規制によって図ろうとしている教育水準の確保、学校の安定的経営基盤の確立を最重要視して行わなければならないのであり、十分な調査と検討に時間をかけ、安定的経営を確保するために財政支出をして慎重に行わなければならないものである。

ところが、被控訴人は、USIU日本校の設置が教育事業であり右のように慎重な対応を必要とするにも拘わらず、一般の企業誘致と同じように考え、産業経済部門が中心となって教育関係の部門や機関には殆ど関与させずに、USIU日本校の開校により地元にもたらされる経済効果の面に目を奪われ、早く、安く誘致を推進したのである。

このため、USIU日本校は、被控訴人とUSIUが控訴人に対し表示、説明した学生定数、設備内容、教授陣、教育方法、学部を備えておらず、日本にいながら(USIU日本校に通学して)米国の大学の卒業資格が取れるといわれながら具体的にその方法が確保されないまま平成元年四月に開校したものであり、学校教育法に基づく専修学校としての認可も得ておらず、財政的経営基盤が脆弱で、学校法人として設立されておらず、経営及び運営責任が不明確で、学校法人設立の見通しがなく、開校後の経理及び資産の適正な管理が行われず、入学生が納付した入学金や授業料が米国の本校に送金され、USIU日本校のために使用されなかったものである。

(三) 被控訴人の共同事業遂行の過失

学校教育法、私立学校法等は、学校の設置について厳格な規制を行っているが、その規制の趣旨は、学校を設置しようとする者に対する公序や条理を形成し、注意義務発生の重要な判断基準となるものである。

被控訴人は、地方公共団体として、又、重要な公教育の担い手として(学校教育法二九条、四〇条)、一般人と比較して高度の注意義務があり、USIU日本校設置の共同事業者として、次の(1)ないし(5)の注意義務を負っていたが、いずれもこれを怠った過失がある。」

4  同一九枚目裏六行目の冒頭の(一)」を「(1)」、同二〇枚目表五行目の冒頭の「(二)」を「(2)」、同裏三行目の冒頭の「(三)」を「(3)」、同二一枚目表四行目の冒頭の「(四)」を「(4)」、同裏一行目の冒頭の「(五)」を「(5)」、同二二枚目表一行目の冒頭の「(1)」を「ア」、同七行目の冒頭の「(2)」を「イ」とそれぞれ改める。

5  同二二枚目表末行の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(四) 控訴人の損害

控訴人は、USIU及び被控訴人の表示や説明と著しく相違し大学としての実態を備えていないUSIU日本校に入学したため、入学金や授業料相当額の経済的損害を被っただけでなく、人間にとって最も重要な青春期の貴重な時間を浪費させられ、人生の回り道を余儀なくされ、しかも、抗議したところUSIUから違法な停学処分を受け、回復し難い重大な損害を被ったのである。」

6  同二二枚目裏一行目から同七行目までを次のとおり改める。

「Ⅱ 被控訴人のUSIU日本校の誘致による不法行為責任

(一)  被控訴人のUSIU日本校の誘致についての関与の形態、程度等

(1) 被控訴人は、基本契約により、USIUとの間で、USIU日本校を設置するという共同の目的を定め、仮校舎の提供や六ヘクタールの土地の無償譲渡など多額の資金の分担を約束し、USIU日本校の運営と活動に関する意思決定についてUSIUと協議する権限を有している。

(2) 被控訴人は、平成元年一月に二回に亘って被控訴人の広報きしわだにUSIU日本校の学生募集要項を掲載し(〔証拠略〕)、また被控訴人の原曻市長は、同じころ『ごあいさつ』と題する書面を作成して高等学校の進路指導の窓口に送付するなどし(〔証拠略〕)、ともにUSIU日本校の対外的な学生募集に積極的に協力し、重要な役割を果たした。被控訴人は、昭和六三年一二月一六日の市議会において、USIU日本校のPR誌の作成予算として三〇〇万円を計上した(〔証拠略〕)。

(3) 被控訴人は、基本協定及び基本契約に基づき、USIU日本校の教育内容に関与し、控訴人その他の学生の損害の発生を防止できる立場にあった。被控訴人は、USIU日本校の誘致を決定するときに、USIUの入学案内(〔証拠略〕)どおりの教育が行われることを前提にしていたのであり(〔証拠略〕)、USIUに対し右入学案内どおりの教育を行うように事前及び開校直後に指導、監督する権限があったのである。

(二)  被控訴人の誘致の違法性

(1) 被控訴人がUSIU日本校設置の共同事業者でなく、誘致者に過ぎないとしても、被控訴人がUSIU日本校の誘致について果たした役割、関与の程度、権限、誘致しようとする事業の性格、又はその社会的影響(失敗したときの第三者に与える損害発生の危険性とその重大性)等と被害者である控訴人の損害の内容や性質、程度等を相関関係的に判断して信義公平等の観点から被控訴人に対し不法行為の損害賠償責任を負わせることが妥当か否か(言い換えれば被控訴人の注意義務を認めるかどうか)を検討すべきである。

被控訴人は、コスモポリス計画という行政上の施策の一環としてUSIU日本校を誘致したものであり、右誘致によって不当に第三者に損害(法益侵害)を与えれば、その第三者(本件では控訴人その他の学生)との関係で違法と評価されるものである。

(2) 学校教育法や私立学校法は、学校という教育施設で教育を受ける学生の利益が重大で公共的性格を持つことに鑑み、これを法的に保護するため、学校経営の安定、教育水準の確保、設置基準の制定、設置の認可制などの措置を採っている。

控訴人その他のUSIU日本校に入学した学生は、入学当時高等学校を卒業したばかりで社会的経験の少ない未成年者で、社会的弱者であり、USIUという米国の大学、USIU日本校という新しい学校が信頼できるかどうかを調査する能力がなかった。

したがって、被控訴人は、教育事業の担い手である地方公共団体として、学生の利益を守るべき立場にあり、地方公共団体として、学校を誘致する場合、学校教育法の趣旨を遵守し、学校の経済的安定を確立し、所定の教育水準を維持して学生に損害を与えないように配慮すべき立場にあった。USIU日本校は、学校という教育施設であり、学生の入学を当然の前提としているから、被控訴人は、誘致したUSIU日本校の教育内容が不十分であって控訴人その他の学生が勉学を続けることができないことになれば、控訴人その他の学生に回復し難い損害を与えることを当然予見できたのであり、誘致について慎重な検討をしなかったために控訴人その他の学生に損害を与えた違法がある。

(三)  被控訴人の誘致の過失

(1) 学校の安定的経営の基礎となる財政的基盤確立についての注意義務違反

被控訴人は、USIUの財政悪化による経営の不安定のためにUSIU日本校の教育水準が確保されず、入学した控訴人その他の学生に損害を被らせることのないように、USIU日本校の財政的基盤が確立されているかどうかを調査すべき注意義務があった。

被控訴人は、USIUの財政状態やUSIU日本校の設置運営についてのUSIUの具体的な資金計画について十分な調査をすべき義務があった。

ところが、被控訴人は、誘致決定に先立ち、USIUから資産が負債の五倍あると口頭で説明を受けたことと、USIU本校を見学したことだけであって、USIUの財務関係の書類を取り寄せたことも、公認会計士税理士等の専門家に調査を依頼したこともなく、資産と負債の内訳が記載された貸借対照表と収入と支出の内訳が記載された損益計算書さえ調べていない。

(2) USIU日本校開校後の安定的、継続的な経営をなすための財政的基盤確立についての注意義務違反

被控訴人は、開校後にUSIU日本校の入学金、授業料収入等を日本校の内部に確保するために必要な処置を講じるべきであったのに、これを怠り、USIUに任せ、USIU日本校の資金を米国の本校に流出させた。

(3) 学校法人の申請等についての注意義務違反

被控訴人は、USIU日本校について、日本の学校としての法規制に服し、財政的基盤を確立するために、準学校法人の設立と専修学校の認可を得てから開校させるべき注意義務があり、これが無理であるとしても開校直後に右手続を完了させるべきであったのにこれを怠り、準学校法人の設立認可申請や専修学校の設置認可基準を事前に調査せずに漫然と開校を許し、開校後も学校法人化及び専修学校の設置認可申請についてUSIUに任せきりにしていた。

被控訴人は、USIU日本校の計画からすると、USIU日本校の教育内容の水準が各種学校に相当せず、専門課程を置く専修学校に相当するものであるから、専修学校として認可申請をすべき義務があったのである。ところが、USIU日本校は、平成元年四月の開校のときに三二四名の学生を入学させたため、専修学校の認可基準が校舎面積八二五・五ないし九七五平方メートルに対しては学生定員上限三五〇名と定められていた関係で、平成二年度の入学生を二六名に限定するか仮校舎を増築するかしなければ、専修学校の認可が受けられない状況であった。

(4) 教育水準維持確保の注意義務違反

被控訴人は、USIU日本校について入学案内に記載のとおりに教育が実施されるかどうか、現に実施されているかどうかについて事前及び開校直後に調査すべきであったにも拘わらず、これを怠った。又、被控訴人は、右入学案内でUSIUの分校とされているヨーロッパ校(ロンドン)、メキシコ校、アフリカ校(ナイロビ)の教育実態について調査せず、既に日本で開校されていた東京校についても満足な調査をしないまま誘致を決定している。

(四)  まとめ

被控訴人は、USIU日本校の誘致者として、違法性ないし注意義務違反があり、これによって控訴人に損害を与えた以上、民法七〇九条又は国家賠償法一条に基づく損害賠償責任がある。

被控訴人がコスモポリス計画という行政上の施策としてUSIU日本校を誘致したことは、被控訴人の誘致が純然たる私経済作用としてではなく、国家賠償法一条所定の公権力の公使に該当するとしても、その損害賠償請求の根拠が国家賠償法一条に基づくことになるだけであって、披控訴人の損害賠償責任を否定する根拠となるものではない。

Ⅲ 被控訴人のUSIU日本校の計画担保による不法行為責任

(一)  被控訴人は、コスモポリス計画の一環としてUSIU日本校を誘致したのであるから、USIU日本校の誘致は、地方公共団体の一定内容の継続的施策である。

計画担保責任は、行政主体の計画や施策の継続、存続に対する国民や市民の信頼を保護しようとするものであり、誘致当事者に限定されることなく、計画や施策の継続、存続を信じて生活設計や経済投資をした者で保護に値する者にも適用されるものである。

(二)  被控訴人は、広報きしわだにUSIU日本校の学生募集要項を掲載し、市長の『ごあいさつ』と題する書面を高校の進路指導の教師に送付したことによって、これを見た者に対し、具体的に勧誘し、入学に強い動機を与え、その信頼を惹起したものである。

控訴人は、学生として、被控訴人がUSIU日本校を誘致し、将来は立派な学校にするという計画を持っていたことを信頼して同校に入学したのである。

したがって、右信頼に基づきUSIU日本校に入学した控訴人は、被控訴人から個別的、具体的に勧誘を受けたといえる。

(三)  控訴人は、当時未成年者であり、被控訴人によりUSIUの財政面や教育内容について十分な調査がなされた上で誘致が決定され、USIU日本校が信用できる学校であり、被控訴人による誘致が将来も継続され、USIU日本校が立派な大学になるとの被控訴人の計画を信頼していたのである。控訴人のこのような信頼は、私的な経済的利益と違って、学校教育法等によって保護されている公的な利益であり、社会的に未成熟で法的保護の必要性の高い利益である。誘致の当事者である被控訴人が、控訴人の右信頼について過失があり自己責任に帰すべきであると主張するのは許されない。

(四)  控訴人は、学生募集パンフレットの記載内容に反して、極めて不十分な教育しか受けられなかった、そのため、控訴人は、USIU日本校に在学した期間が事実上無意味となり、入学金や授業料相当額の経済的損害を受けるとともに、人間の一生を左右する青春期の貴重な時間を浪費させられ、人生の回り道を余儀なくされるなど回復し難い損害を被ったのである。

控訴人は、被控訴人から何らの代償的措置も受けていない。

(五)  したがって、本件においては、計画担保責任は、保護要件を緩和して広く適用されるべきである。

よって、被控訴人は、控訴人に対し、計画担保による不法行為責任に基づき、控訴人の被った損害を賠償する責任がある。

Ⅳ 被控訴人のUSIU日本校についての広報等による誤った情報提供による不法行為責任

(一)  被控訴人は、広報きしわだにUSIU日本校の学生募集要項を掲載し、市長の『ごあいさつ』と題する書面を高等学校の進路指導の教師に送付したことによって、控訴人に対し、具体的に勧誘し、入学に強い動機を与え、その信頼を惹起したものである。

広報きしわだは、USIU日本校が平成元年九月に教養学部を設置し、平成三年九月に経営経済学部、国際関係学部を設置するという計画であることも掲載していた。控訴人はこれを信頼してUSIU日本校に入学したものである。

(二)  ところが、USIU日本校は、右教養学部も経営経済学部、国際関係学部も設置しなかった。被控訴人の広報きしわだにより提供した情報は、その後の経過に照らし事実と異なる虚偽のものであり、被控訴人は、調査を尽くさなかったために右のような誤った情報を提供したものである。

(三)  よって、被控訴人は、控訴人に対し、広報等により誤った情報を提供した過失による不法行為があるから、控訴人の被った損害を賠償する責任がある。」

7  同二二枚目裏八行目を次のとおり改める。

「(被控訴人の主張)

Ⅰ  被控訴人のUSIUとの共同事業による不法行為責任について

(一) 被控訴人は、USIU日本校設置の共同事業者ではない。USIU日本校は、USIUが設置した学校であり、USIUが事業主体である。

(二) USIU日本校設置の主たる目的は、USIUにおいては教育事業の実践であり、被控訴人においては地域社会の活性化であって異なるものである。

被控訴人は、USIUに対し、USIU日本校のために出捐を約束したが、これは、最終的に学校法人による学校の設置を目的とし、学校法人化の一環として被控訴人からの出捐が約束されたものであり、同出捐は学校法人化によって学校法人の基本財産に組入れられ(私立学校法施行規則三条二項)、被控訴人の手を離れ、学校法人固有の財産となるのであって、出捐と経営管理とはまったく異別のことである。

被控訴人は、基本契約により、USIUに対し、USIU日本校の運営について報告を求め、協議をし、勧告をし、出捐の返還を求めることができることになっているが、これは、公金その他公の財産は、公の支配に属しない教育の事業に支出し、その利用に供してはならないという憲法八九条の公の支配の観点から定められたものであって、USIU日本校の経営管理事項について被控訴人が直接の権限を有することを意味するものではない。

被控訴人は、USIU日本校の設置によってコスモポリス計画の実現による地域振興という利益を享受できるとしても、副次的効果の一面に過ぎないのであって、USIU日本校の設置の共同事業者であるということにはならない。

Ⅱ  被控訴人のUSIU日本校誘致による不法行為責任について

(一) 被控訴人は、USIUと基本協定及び基本契約を締結してUSIU日本校を誘致したが、誘致について責任がない。

USIU日本校の誘致は国家賠償法一次所定の公権力の行使に当たらない。USIU日本校は、基本契約に定められているように、USIUが設置し、将来的には学校法人化される私立学校であり、被控訴人が設置する公立学校ではない、したがって、USIUやUSIU日本校について各種教育関係法令による規制が適用されることがあるとしても、被控訴人が誘致者として学校教育法等に基づき法的義務を負うものではない。

被控訴人は、USIU日本校の安定的経営の基盤となるため各種の出捐を予定し、USIUがなすべき学校法人化に側面から協力し、USIU日本校の教育水準の維持について要望等を行い、USIUの財政的基盤や学校法人化について誘致者として少なくない事前調査を行っている。被控訴人は、広報きしわだにUSIU日本校の開校と学生募集要項を掲載したが、USIU日本校に対する協力というよりは、市民に対する広報による情報の提供であって、積極的な関与をしたものではなく、市長の『ごあいさつ』と題する書面もUSIU日本校誘致に伴う儀礼的な挨拶に過ぎず、被控訴人から直接に高等学校に配布した事実はない。USIUが学校教育法に照らし誘致するに適当な大学であるかどうかの最終的な判断は、被控訴人ではなく、許認可庁である大阪府知事の権限に属するものである。

被控訴人は、USIU日本校について、専修学校又は各種学校いずれかによる学校法人化を期待していたが、USIU日本校と大阪府私学課との事前相談により校舎の規模と学生数の関係で各種学校による認可申請の指導を受け、これに基づき各種学校の認可申請がなされたのである。将来的に校舎の問題が解決すれば専修学校への変更は法手続上可能であり、当面の課題は法人格の取得にあったのであり、その手続の進行中に控訴人が退学したのである。」

8  同二二枚目裏九行目の冒頭に「(二)」を付加し、同二三枚目表五行目の冒頭の「(一)」を「(1)」、同六行目の冒頭の「(1)」を「ア」、同裏二行目の冒頭の「(2)」を「イ」、同四行目の冒頭の「(3)」を「ウ」、同六行目の冒頭の「(二)」を「(2)」、同七行目の冒頭の「(1)」を「ア」、同末行の冒頭の「(2)」を「イ」、同二四枚目表六行目の冒頭の「(三)」を「(3)」、同末行の冒頭の「(1)」を「ア」、同裏三行目の冒頭の「(2)」を「イ」、同六行目の冒頭の「(四)」を「(4)」、同二五枚目表八行目の冒頭の「(五)」を「(5)」、同末行の冒頭の「(六)」を「(6)」とそれぞれ改める。

9  同二六枚目表二行目を次のとおり改め、同三行目の冒頭に「(二)」を付加する。

「Ⅲ 被控訴人のUSIU日本校についての計画担保による不法行為責任について」

(一)  計画担保責任によって保護されるのは、行政主体の特定の行政施策を信頼して行為をした者に限定されるのである。

被控訴人の広報のUSIU日本校の開校と学生募集要項の掲載や、市長の『ごあいさつ』と題する書面は、USIU日本校誘致についての情報提供や儀礼的な挨拶に過ぎず、行政主体の特定の行政施策や控訴人に対する個別的、具体的な勧誘ではなく、控訴人は勧誘を受けた特定の者でもない。

広報きしわだによる情報の提供が単にUSIU日本校を紹介するにとどまらず、受験者に対し、USIU日本校へのアクセスを容易にさせたとしても、右広報はあくまでも紹介の範囲にとどまるものであって、被控訴人が控訴人に対しUSIU日本校への入学を勧誘したものではない。」

10  同二六枚目裏二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「Ⅳ 被控訴人の広報等による情報提供による不法行為責任について

被控訴人は、先に誘致の責任の項で主張したとおり、USIUの財政的基盤や学校法人化についても少なくない事前調査を行った上でUSIU日本校を誘致し、開校及びその学生募集要項を広報に掲載したのであるから、誤った情報を提供したものではなく、情報の提供について過失がなく、控訴人に対し、広報等によって情報を提供したことによる不法行為責任を負うものではない。」

第三  争点に対する判断

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないから棄却すべきであると判断するが、その理由は次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」のうち被控訴人に関する部分記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三五枚目裏五行目の「右山本実」とあるのを、「平成元年二月ころから平成二年五月ころまでUSIU日本校の事務職員としてUSIU日本校の事務を担当していた山本実」と改める。

2  同三六校目表七行目の「(甲二二〇、二四三)」とあるのを「(甲二四〇、二六九)」、同一〇行目から同末行にかけて「(甲二四三)」とあるのを「(甲二六九)」、同三七枚目裏五行目の「甲八四」とあるのを「甲六八」、同四七枚目裏三行目の「甲六六」とあるのを「甲八六」、同四八枚目表四行目の「甲九四」とあるのを「甲一一四」とそれぞれ訂正する。

3  同六四枚目表二行目の「被告岸和田市の不法行為責任」とあるのを「被控訴人の責任」と改める。

4  同六六枚目裏三行目の「(甲二三七)」を「(甲二三四、二五六)」と訂正する。

5  同六八枚目裏六行目の「『ごあいさつ』」の前に「被控訴人市長名義の」を付加する。

6  同八六枚目裏三行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、被控訴人がUSIUとの間の基本協定及び基本契約によってUSIU日本校を設置することを共同の目的として、その設置を共同して行うことを約したと主張する。しかし、先にみたとおり、USIU日本校は、米国の学校法人であるUSIUが米国の本校及び外国の分校において行ってきた大学教育の知識、経験をもとに、日本で米国の大学教育の方式に基づいた教育を行うために設置した分校であり、被控訴人はこれを誘致したに過ぎないというべきである。

控訴人は、被控訴人がUSIU日本校のために暫定的な校舎として被控訴人の施設を無償貸与し、恒久的な施設の敷地として六ヘクタールの土地を将来無償譲渡することを約束し、その出捐は全体の三〇・三パーセントから三三・七パーセントに達するから共同事業者であると主張する。しかし、地方公共団体が米国大学の分校の誘致に当たり暫定的な施設を無償貸与し、恒久的な施設の敷地を将来無償譲渡することを約束し、その出捐が全体の三〇・三パーセントから三三・七パーセントに達するからといって、先にみたとおり、被控訴人は、米国大学の誘致に当たり、いわゆる被控訴人の丸抱えとなることを避けて米国学校法人を主体とする米国大学の分校の誘致を図ったのであるから、右出捐をもって被控訴人をUSIU日本校設置の共同事業者ということはできない。

控訴人は、被控訴人が日本法人設立前及び設立後のUSIU日本校の運営等について報告等を求め、勧告や協議をすることができ、同校の運営等が基本契約に反する場合には、恒久施設のために譲渡した土地の返還を求めることができるのであるから、同校設置の共同事業者であると主張する。しかし、先にみたとおり、被控訴人が基本契約に基づき右のような契約上の権利を有するとしても、被控訴人は、暫定的な校舎施設の無償貸与、恒久的な施設の敷地の将来の無償譲渡を出捐の中心にしているに過ぎず、USIUが単独主体となってUSIU日本校の設置及び運営に当たることが明確であるから、被控訴人をUSIU日本校設置の共同事業者と認めることはできない。

控訴人は、被控訴人がUSIU日本校の設置によってコスモポリス計画の実現による地域振興という利益を享受したから共同事業者であると主張する。しかし、先にみたとおり、USIUが単独主体となってUSIU日本校を設置するのであるから、被控訴人がUSIU日本校の設置によって地域振興という利益を受けたとしても、これをもって被控訴人をUSIU日本校設置の共同事業者と認めることはできない。

したがって、被控訴人は、USIU日本校設置の共同事業者として損害賠償責任を認めることはできないというべきである。」

7  同八六枚目裏四行目から同八七枚目表九行目までを次のとおり改める。

「2 被控訴人のUSIU日本校誘致による不法行為責任について検討する。

(一) 被控訴人による誘致についての関与の形態、程度等

先にみたとおり、被控訴人は、基本契約において、USIUとの間で、USIUかUSIU日本校を設置するために仮校舎を無償貸与し、恒久的施設の敷地として将来六ヘクタールの土地を無償譲渡するなど出捐を約束し、USIU日本校の運営と活動についてUSIUと協議する権限を有し平成元年一月に二回に亘って被控訴人の広報きしわだにUSIU日本校の学生募集要項を掲載し(〔証拠略〕)、また被控訴人市長が同じころに『ごあいさつ』と題する書面を作成するなどし(〔証拠略〕)、ともにUSIU日本校の対外的な学生募集に協力し、昭和六三年一二月一六日の市議会において、USIU日本校のPR誌の作成予算として三〇〇万円を計上し(〔証拠略〕)、USIUの入学案内(〔証拠略〕)どおりの教育が行われることをUSIUに申し入れることができたものと認めることができる。しかし、これらの事実は、被控訴人がUSIU日本校の誘致者として、USIU日本校における教育が右入学案内のように行われることをUSIUに求めることができることを意味するに止まり、被控訴人がその実現の責任を負うことまでも意味するものということはできない。

(二) 被控訴人による誘致の違法性ないし過失

(1) 控訴人は、USIU日本校が学校という教育施設であり、学生の入学を当然の前提としているから、被控訴人には、誘致したUSIU日本校の教育内容が不十分であって控訴人その他の学生が勉学を続けることができないことになれば、控訴人その他の学生に回復し難い損害を与えることになるから、誘致について慎重な検討をすべきであるのにこれをしなかった違法があると主張する。又、控訴人は、被控訴人がUSIUの財政悪化による経営の不安定のためにUSIU日本校の教育水準が確保されず、入学した控訴人その他の学生に損害を被らせることのないように、USIU日本校の財政的基盤が確立されているかどうかを調査すべき注意義務があったと主張する。

先にみたとおり、被控訴人が誘致したUSIU日本校は、入学案内に、平成元年九月に教養学部(教養課程)を設置すると表示しながら実際にはこれを設置せず、語学力が上位で平成元年九月の秋学期から教養学部に進学できる可能性のあった控訴人の期待を裏切ったこと、入学案内にESOLコースの教授陣が全員博主号又はこれに準ずる資格を有し本校において資格を認定された経験豊富な講師陣であると表示されていたのに相違していたこと、入学案内にESOLコースには語学コンピューター・ラボプログラムがあるといわれていたが導入されなかったこと、入学説明会で直ぐにでも学校法人化されるといわれたに法人化されなかったこと、入学案内にウィーン及び西ドイツにも分校があると虚偽の表示をしていたこと、入学案内に顧問として掲げていた著名人が実際は顧問でなかったことなど、教育内容と教育体制に当初の表示や説明と相違する不備があり、平成元年四月の開校の際に学生定員を超える多数の新入生を受入れ、又、USIU自体の財政基盤が脆弱で経営に行き詰まり控訴人退学後の平成二年一一月二〇日に米国で裁判所にチャプターイレブンという更生手続を申立てて事実上倒産し、USIU日本校が平成三年六月四日に閉鎖されたというのである。控訴人は、平成元年一一月に退学しているとはいえ、USIU日本校の教育内容と教育体制が入学案内や入学時の説明と異なり不備であったことからすると、USIUの教育内容と教育体制の不備により被害を受けたものということができる。

しかし、USIU日本校は米国大学の分校であって、その設置及び経営の主体はあくまでもUSIUであり、USIUは米国の方式に基づく大学教育を行うことを目的として、その独自の計画によりUSIU日本校の教育内容と教育体制を決定したものということができるから、控訴人ら学生に対して入学案内や入学説明会で示した教育内容と教育体制を履行すべき責任を負うのはUSIUであるということになる。

被控訴人は、USIU日本校の設置及び経営の主体でなかったといっても、学校という教育施設で教育を受ける学生の利益が重大で公共的性格を有することから、教育事業の担い手である地方公共団体として、学校を誘致するに当たっては、誘致する大学の教育内容と教育体制を調査し、学生に不測の損害を与えないように配慮すべき責任があるというべきである。

これを本件についてみると、先にみたとおり、被控訴人は、USIU日本校を誘致するに当たり、これに先立ちUSIUとの間で誘致交渉を進めていた大阪府からUSIUに関する資料を入手したほか、市議会の場で交渉担当者から交渉経過や将来の展望についての説明を受け、そのレベルが米国の大学において上位一〇パーセントに入ると評価されており、ヨーロッパ、アフリカ、メキシコにも分校が設置されていることを把握し、又、市議会を通じて、既に米国大学を誘致したり誘致を進めていた市を視察して誘致に伴う問題点を検討し、さらに、USIUから財務関係の聴取と裏付の資料を入手し、負債一に対し資産五の割合であるとの内容となっていると把握し、USIUを視察して学長や教授会と意見交換を行ったり、日本の留学生から感想を聞くなどして、実情の把握に努めたというのである。しかし、被控訴人は、右調査以上に、米国大学に詳しい専門家からの意見聴取、日米教育委員会を利用した調査、会計専門家による財務関係の調査、入学案内に記載された顧問就任の真偽の確認等までは行わなかったというのである。

以上みた事実によれば、結果として被控訴人の誘致したUSIU日本校の教育内容や教育体制に前記のような不備があり、USIUの経営基盤が脆弱でUSIU日本校の経営が挫折する事態を生じ、又、学校という教育施設で教育を受ける学生の利益が重大で公共的性格をもち、さらに、USIU日本校に入学した学生が概ね社会的経験の少ない未成年者で、社会的弱者であり、USIUという米国の大学、USIU日本校という新しい学校の教育内容や教育体制を調査する能力のなかったという事実を考慮しても、被控訴人としては、あくまでもUSIU日本校を誘致したに止まるものであって、USIU日本校の教育内容や教育体制を積極的に宣伝して学生の入学を勧誘したというものでもないから、誘致を決定した平成元年一月当時において、USIU日本校を誘致するに当たり必要と認められる調査検討義務を尽くしたものと認めることができるのであって、誘致するに当たり違法ないし過失を認めることはできないものというべきである。

(2) 控訴人は、被控訴人がUSIU日本校の入学案内に記載のとおりに教育が実施されるかどうか、現に実施されているかどうかについて事前及び開校直後に調査すべきであったにも拘わらずこれを怠り、又、USIUの分校とされているヨーロッパ校(ロンドン)、メキシコ校、アフリカ校(ナイロビ)の教育実態について調査せず、既に日本で開校されていた東京校についても満足な調査をしないまま誘致を決定していると主張する。

しかし、先にみたとおり、被控訴人は、USIUを誘致するに当たり、USIUの教育内容と教育体制について誘致者として必要な調査を尽くしたものと認めることができるのであって、入学案内で示した教育内容と教育体制を履行すべき責任を負うのはUSIUであるから、被控訴人としては開校の直前及び直後に右の点を調査すべき義務を負うものと認めることはできないというべきである。そして、被控訴人は、USIU日本校の開校後にその教育内容の不備を知り、USIUに注意を与えていたというのであるから、この点に格別に問題があるということはできないのである。又、被控訴人がUSIUの分校とされているヨーロッパ校(ロンドン)、メキシコ校、アフリカ校(ナイロビ)の教育実態及び日本で開校されていた東京校について調査した事実は認められないが、他国に設置された分校についてまで調査義務があるとは認められず、東京校については株式会社組織でありUSIU日本校とは制度や目的を異にするから特段の調査をすべきであったということはできない。

(3) 控訴人は、被控訴人が開校後にUSIU日本校の入学金、授業料収入等を日本校の内部に確保するために必要な処置を講じるべきであったのに、これを怠り、USIUに任せ、USIU日本校の資金を米国に流出させたと主張する。

先にみたとおり、USIUは、USIU日本校の入学生から納付された納付金を米国に送金させ、その後一旦日本校に返還したが再度送金をさせたもので、被控訴人は後日これを知ったというのである。しかし、先に述べたとおり、USIU日本校は、USIUの設置した学校であり、日本法人としては設立されておらず、USIUがUSIU日本校の入学生から納付された納付金を米国に送金させることを被控訴人が止めさせることは困難であるというほかはなく、この点に違法を認めることはできない。

(4) 控訴人は、被控訴人がUSIU日本校について、日本の学校としての法規制に服し、財政的基盤を確立するために、私立学校法に基づく準学校法人の設立と専修学校の認可を得てから開校させるべき注意義務があり、これが無理であるとしても開校直後に右手続を完了させるべきであったのに、これを怠り、準学校法人の設立認可申請や専修学校の設置認可基準を事前に調査せず、漫然と開校を許し、開校後も学校法人化及び専修学校の設置認可申請についてUSIUに任せきりにしていたと主張する。

先にみたとおり、被控訴人もUSIUも、USIU日本校について私立学校法に基づき学校法人を設立する計画を持っていたもので、平成元年一〇月には日本法人設立準備会が結成されたが、設立に至らないうちにUSIU日本校が閉校されたものである。しかし、先にみたとおり、USIU日本校の教育内容は米国の大学教育であり、学校教育法による大学ではなく、強いてあてはめれば専門課程を置く専修学校に相当するというものであるから、開校前或いは開校直後までに学校法人を設立して専修学校として認可申請をすべき義務があったということはできない。

(三) まとめ

以上みたところによれば、被控訴人による誘致の違法性ないし過失を認めることはできないから、被控訴人にはUSIU日本校誘致について不法行為責任があるということはできない。

3 被控訴人の計画担保による不法行為責任について検討する。

控訴人は、被控訴人にUSIU日本校誘致について計画担保による不法行為責任があると主張する。

計画担保責任は、地方公共団体が一定内容の継続的な施策を決定し、特定の者に対し、右施策に適合する特定内容の活動を促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘をしたのち右施策を変更する場合に、右特定の者に対し地方公共団体が負う不法行為責任である。

先にみたとおり、被控訴人は、USIUと基本協定及び基本契約を締結してUSIU日本校を誘致し、USIUに対し、暫定的な校舎を無償貸与し、恒久的施設の敷地を将来無償譲渡することを約したものである。そして、被控訴人は、平成元年一月に二回に亘って被控訴訴人の広報きしわだにUSIU日本校の学生募集要項を掲載し、被控訴人市長は、同じころに「ごあいさつ」と題する書面を高校の進路指導の教師に送付しているというのである。しかし、被控訴人は、あくまでもUSIU日本校の誘致者に過ぎず、被控訴人の広報にUSIU日本校の募集要項を掲載したり、「ごあいさつ」と題する書面を高校の進路指導の教師に送付しても、USIU日本校についての紹介、情報提供、儀礼的挨拶の範囲にとどまるものであって、USIU日本校の入学希望者である控訴人その他の学生に対し、USIU日本校とは別に自らの独自の判断と責任においてUSIU日本校の教育内容や教育体制を積極的に宣伝したり、USIU日本校への入学を促すための個別的、具体的な勧誘をしたものとは認められないのであるから、控訴人に対し、計画担保責任を負うものということはできない。

4 被控訴人の情報提供による不法行為責任について検討する

控訴人は、被控訴人が広報きしわだにUSIU日本校の学生募集要項を掲載し、市長の『ごあいさつ』と題する書面を高等学校の進路指導の教師の送付し、USIU日本校が平成元年九月に教養学部を設置し、平成三年九月に経営経済学部、国際関係学部を設置するという計画であるという情報を提供し、控訴人がこれを信頼してUSIU日本校に入学したものであるところ、USIU日本校には右教養学部も国際関係学部も設置されず、被控訴人の誤った情報の提供により控訴人は損害を被ったと主張する。

先にみたとおり、被控訴人は、平成元年一月に二回に亘って被控訴人の広報きしわだにUSIU日本校の学生募集要項を掲載し、(〔証拠略〕)、又、被控訴人市長は、同じころに『ごあいさつ』と題する書面を作成している。右〔証拠略〕によれば、このうち広報きしわだ六二四号にはUSIU日本校に経営経済学部、国際関係学部が設置される旨、広報きしわだ六二五号には平成元年九月から教養学部(教養課程)の講座がスタートし、二年後をめどに経営経済学部、国際関係学部が設置される旨の記載があることが認められる。そして、先にみたとおり、USIUは、入学案内で設置を明らかにしていたにも拘わらずUSIU日本校に教養学部も経営経済学部、国際関係学部も設置しなかったのである。しかし、先に述べたとおり、USIU日本校における学部の設置は教育内容及び教育体制に拘わることで、USIUの判断と責任において行われることであり、右広報掲載時にはUSIUにおいて右各学部を設置する予定であることを明らかにしていたのであるから、被控訴人の広報に誤った情報が掲載されたということにはならない。

したがって、被控訴人には誤った情報を掲載したことによる不法行為責任があるということはできない。」

8  同八七枚目表一〇行目の冒頭の「2」を「5」と改める。

二  よって、控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないから棄却すべきであり、右と同旨の原判決中被控訴人に関する部分は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 井土正明 横山光雄)

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